スポーツ外傷・障害 【投球障害肩(野球肩)2】

【投球障害肩(野球肩)2】

 前回は、投球障害肩についてと投球フェーズについて記載しました。今回は、痛みの部位とその要因や当院でのアプローチ例についてお伝えしていきます。

前回記事:1.投球障害肩とは? 2.投球フェーズについて

<目次(前回の続き)>
3.痛みの部位と要因
4.評価ポイント
5.当院でのアプローチについて
6.まとめ

 

3.痛みの部位と要因

○肩関節外側部
 テイクバックなどの早期コッキング期から後期コッキング期などに肩関節を外転・外旋する際に、上腕骨頭と烏口肩峰アーチの間で外側部に痛みを生じることが多い。腱板の機能低下により、上腕骨頭を肩甲骨関節窩に保持する機能が低下することで生じやすい。

 

 

○肩関節前面部
 後期コッキング期から加速期にかけて前面部の痛みを生じることが多い。特に肩関節が最大外旋位を呈する際に痛みを生じる選手が多い。肩関節の外旋・水平伸展に伴って、上腕骨頭は前方へ偏位する。それと同時に、肩関節前面には伸張ストレスが加わり痛みを生じる。

 

 

○肩関節後面部
 テイクバックでの早期コッキング期から肩関節最大外旋位を呈する後期コッキング期で痛みを生じる場合と、リリース以降のフォロースルー期に痛みを生じる場合がある。

 前者は、肩関節水平伸展や外旋動作に伴う上腕骨頭前方偏位によって、肩関節後方に圧縮ストレスが加わって生じる。
 後者は、肩関節の内旋や水平屈曲運動時に上腕骨頭は後方に偏位する力を受け、肩後方にかかる筋・腱への伸張ストレスによって生じる。

 

 

4.評価ポイント

○問診
 痛みの部位、痛みが出る動作、頻度、いつから痛みがあるのか、受傷機転、既往歴等の確認を行い、病態の推測を行います。

○可動域・可動性
 肩関節だけでなく、肩甲骨の動き、胸郭の可動性を確認。
 その他、患部外として、股関節・膝・足関節・頚部の動きなども確認します。

○疼痛誘発テスト
 各種テスト法を用いた病態の評価や肢位による痛みの状態の確認を行います。

○筋力・安定性
 腱板等の肩関節周囲の筋力だけでなく、殿筋筋力や肩甲帯安定性、体幹安定性、片脚立位・ランジ安定性など全身の確認を行います。
 また、筋出力のタイミングなど協調性もチェックします。

○動作確認
 実際の投球動作などのフォーム確認をして、動作をチェックします。

・軸足片足立ち:軸足での片脚立ちの際の安定性
 上体がセカンド方向や後方へ傾きすぎないように、真っすぐ立てるようにする。

・テイクバック軌道:肩甲骨平面上でのテイクバック
 肘が後方に入り過ぎないようにする。後方に引きすぎると、スムーズな肩関節外転動作ができなくなり、肩の痛みにつながる。

・肘下がり:肩-肩-肘ラインを保つ
 トップポジションからリリースにかけて、肘が両肩を結んだラインよりも下がらないように注意する。
 基本的には、どのフォームにおいてもこの肩-肩-肘ラインを保ち、身体の傾きによってオーバースロー・サイドスロー・アンダースローなどの違いが出てくる。

・肘突き出し:肩甲骨平面上の保持
 加速期からリリースにかけて、肘だけが先行して動かないように、肩甲帯の安定性を保ったまま動作する。

・リリースポイント
 リリースポイントが後ろになり過ぎて、後方重心のままボールをリリースしないように注意する。

・ステップ脚股関節への乗り込み:ステップ脚股関節にしっかり荷重する
 リリースからフォロースルーにかけて、ステップ脚股関節の内転・内旋動作、体幹の屈曲・回旋動作をしっかりと使って股関節に乗り込み、身体全体で減速動作を行う。

 

5.当院でのアプローチについて

 徒手や鍼灸を用いた患部の治療だけでなく、前述の評価により把握した機能不全部位に対してのアプローチも行い、胸郭の柔軟性(可動性)・安定性、股関節の柔軟性、体幹安定性、下肢安定性、動作の協調性などの改善・獲得を含め、全身の調整を行います。
 また、人工芝トレーニングスペースを用いて、補強トレーニングや、動作の修正等を行い、肩肘へ負担のかかりにくい動作の習得を行っていきます。
 その他、痛みが出る前の予防として、日頃のコンディション維持のためのケアや、予防エクササイズなども実施可能です。

6.まとめ

 投球障害肩(野球肩)は、結果として肩にダメージがあることも多々ありますが、肩自体の問題と捉えるより、全身の機能不全に伴う投球フォームの崩れに影響していると考えることができます。
 もちろん、肩の治療も必要にはなりますが、全身の状態を評価し、可動域の制限や安定性の低下、動作の連動性不良といった全身の機能不全を改善していくことが、投球障害肩(野球肩)の治療や予防に対して非常に重要となります。

 

参考文献)
・日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー専門テキスト
・臨床スポーツ医学~臨時増刊号2015~ 野球の医学 -競技現場のニーズに応じた知識と技術-

 

 当院では、全身を評価して、根本から改善を図ります。投球時の肩の痛み等で悩んでいる方、一度ご相談ください。
 もちろん、投球障害肩以外のスポーツ障害、一般の方の日常生活の諸問題に関しても対応いたします。お気軽にご相談ください。

たけスポーツ鍼灸マッサージ院        
熊本市東区御領1-8-38 長嶺ビル102号   
TEL:096-221-4796    
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