スポーツ外傷・障害 【投球障害肩(野球肩)1】

【投球障害肩(野球肩)1】

 私自身、中学・高校・大学と野球をしてきましたが、肩・肘の痛みに悩まされた時期もあり、思うようにプレーできなかった経験があります。
 当時は、実家近くの鍼灸院で治療してもらいながらプレーしていたため、この仕事に進む上で「鍼灸師」という資格の選択は自然に出てきました。また、高校時代にチームにトレーナーさんがいたこともあり、「トレーナー」という仕事にも馴染みがあり、「アスレティックトレーナー」の資格も取得しました。
 その後、整形外科勤務でのリハビリ担当や社会人硬式野球部・高校野球部でのトレーナー活動を通して、自分と同じように投球時の痛みに悩む選手が多くいて、その選手の治療と競技復帰のサポートをしてきました。
 今回は、投球障害肩(野球肩)について、2回に分けてお伝えしたいと思います。
 少しでも、投球障害に悩む選手の力になれればと思います。

 

<目次>
1.投球障害肩(野球肩)とは?
2.投球フェーズについて

 

1.投球障害肩(野球肩)とは?

 様々な身体機能不全により、投球動作における運動連鎖がスムーズに行えなくなり、肩甲上腕関節に過剰な負荷がかかって痛みが誘発されたもの。

 骨端線閉鎖前では上腕骨近位骨端線離開(リトルリーガーズショルダー)が、骨端線閉鎖後では腱板損傷や関節唇損傷などの病態が問題となります。
 これらの器質的な問題に関しては、医師の診断を必要としますので、一度整形外科(スポーツ整形)にて診断を受けてください。

 身体機能不全には、肩・肩甲帯の可動域低下・筋力低下・安定性低下などの肩自体の問題だけでなく、股関節可動域低下やバランス(軸脚・ステップ脚での片脚立ち)低下などの下半身機能不全や、胸郭の可動性低下や体幹安定性低下などの体幹機能低下など、様々な要因が関わってきます。

 また、足首捻挫や肉ばなれなどの既往歴があるなど、肩以外のケガが引き金となって全身の機能不全を起こし、結果として肩や肘の痛みを誘発していることもあります。
 そのため、投球障害肩とはいえ、肩だけでなく、既往歴を確認しながら全身へのアプローチが必要となってきます。

 

2.投球フェーズとその特徴について

 投球動作は、以下のようなフェーズに分類することができ、身体の動作の特徴として次のようなことが挙げられます。

図1.投球フェーズ
<各フェーズの特徴>

ワインドアップ期:投球の始動からボールがグラブから離れ、ステップ脚が最大挙上するまで

図2.ワインドアップ期

 軸脚(右投げの場合、右脚)でバランスを取りながら、ステップ脚(右投げの場合、左脚)の股関節は屈曲する。下肢・体幹のバランス機能が重要となり、股関節の柔軟性も必要となる。
 上肢については、胸やお腹の前でグラブとボールを合わせているが、頭の上まで大きく振るかぶるワインドアップでは肩関節の屈曲挙上も生じる。ワインドアップでは、肩の可動域だけでなく、胸椎の伸展動作の柔軟性も必要になる。

 

アーリーコッキング期(早期コッキング期):ボールがグラブから離れ、最大挙上したステップ脚を投球方向に踏み出し接地するまで/接地のタイミングで上肢はトップポジションになる

図3.アーリーコッキング期

 下肢は、ワインドアップ期の片脚立ちから投球方向へ体重移動するに従い、股関節が外転する。軸脚での安定性を保ちながら体重移動するため、下肢・体幹の安定機能が必要となる。
 投球側上肢は、肩関節外転と肩甲骨の内転位を保持しながらの上方回旋が生じてテイクバックし、肘が上がってくる。フォームによっては、胸郭回旋を伴う場合もある。肩・肩甲骨や胸郭の柔軟性が必要となり、上腕骨頭を肩甲骨関節窩に保持(求心位保持)させるための安定性や肩甲骨内転位の保持機能も必要になる。

 

レイトコッキング期(後期コッキング期):ステップ脚が地面に接地し、投球側の肩関節が最大外旋するまで

図4.レイトコッキング期

 ステップ脚の股関節は、接地後に内転・内旋する。身体が流れないようにするための下肢筋力・安定性と股関節の柔軟性が必要となる。
 上肢は、体幹伸展に伴う肩甲骨の後傾と肩関節外旋を生じ、トップポジションにある。この時、トップポジションを維持するための肩甲骨内転・肩関節外旋の保持機能が重要となり、肩関節最大外旋位を取るための肩関節・肩甲骨・胸郭の柔軟性が必要となる。

 

アクセラレーション期(加速期):最大外旋した肩関節が内転・内旋しながら投球方向へ加速し、ボールをリリースするまで

図5.アクセラレーション期

 投球側上肢は、肩関節最大外旋位から急激に内転・内旋して加速してくる。肩甲骨の安定性・可動性、上腕骨頭の求心位保持機能が重要となる。
 下肢と体幹は、ステップ脚股関節の回旋動作(内転・内旋)に連動して、体幹の屈曲と回旋(右投げの場合、左回旋)が加わる。体重移動に伴う軸脚の股関節伸展・内旋筋力や柔軟性、ステップ脚の安定性・柔軟性が重要となる。

 

フォロースルー期:ボールをリリースしてから、減速動作を行い投球動作が終了するまで

図6.フォロースルー期

 投球側上肢は、肩関節の内転・内旋が強まり、肩甲骨も外転してくる。また、減速動作による遠心性の負荷が肩後方に加わるため、肩後方の筋(外旋筋など)や背部筋(広背筋など)の強化も必要になる。
 上肢の負担を減らすためには、トレーニングだけでなく、ステップ脚股関節や体幹を十分に回旋させるための柔軟性が重要となる。

 

参考文献)
・日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー専門テキスト
・臨床スポーツ医学~臨時増刊号2015~ 野球の医学 -競技現場のニーズに応じた知識と技術-

 

 次回は、痛みを生じやすい部位とその要因や、当院で行っている評価・アプローチについてお伝えします。

 

 投球障害でお悩みの方、一度ご相談ください。
 もちろん、その他の症状でお悩みの方にも対応いたします。

たけスポーツ鍼灸マッサージ院         
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